いつも通る街のなかの、ごくふつうの飲み屋さんのとなりや、駅から住宅地へ向かうしずかな道沿いの階段を上がったところ、そういう何でもないところにジャズクラブはあるのだけど、ひっそりと閉まるそのとびらの向こうの世界を知っている人は案外すくないのかもしれない。
そこではじめてジャズを聴いた時のわたしの胸は、未開の地へ降りたったような果てしないおどろきとほんの少しの恥ずかしさと、しかしそれらを覆い隠すほどのたっぷりした心地よさに満ちていた。
外はいつもの夜の街なのに、とびら1枚はさんだだけの向こう側にこんな世界があったなんて!
そこは行ったことのないアメリカの古い酒場であったり灼熱のキューバであったりすることもあれば、やわらかな雨の降る森であったり、夜のしじまであったりもする。小鳥が鳴いていることだってある。
それらは毎晩ひそやかに、でもごく平然と、あのとびらの向こうにあって、わたしを迎え入れてくれる。
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